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2016年3月7日

認知症の介護と監督義務(最高裁判決を私的に解説)

認知症の方を家族に抱える方に衝撃を与えた、名古屋地裁、名古屋高裁判決でしたが、最高裁で見事!逆転されましたね。最高裁でも第三小法廷は、人権感覚に優れた判決を出すことで実務家に知られていますが、さすが第三小法廷!って感じの温情判決です。

もちろん、温情だけで判断されたわけではありません。問題になった条文は、民法714条です。

 

民法714条は、未成年者や精神障害者が、責任無能力ゆえに、第三者に損害を与えても賠償責任を負わない場合に、法定監督義務者が賠償責任を負うものと規定しています。但し、監督懈怠のないとき、監督懈怠と損害発生に因果関係のないとき、賠償責任を免れます。監督義務者に代わって監督する者も同様とします。

 

事故で亡くなった御本人は、認知症もかなり進行していましたので、責任無能力者であることが前提でした。ここで「責任能力」とは「自己の行為の責任を弁識する能力」とされ、法律行為をしたり、法律上の責任を負わせることのできる能力で、法律実務では、基本的かつ重要な概念です。

認知症といっても、程度や症状はさまざまですから、認知症=責任無能力、というわけではありません。

事故を引き起こした御本人に責任能力が認められる場合は、いったん御本人に民法709条による損害賠償責任が生じたうえで相続になることもあり得ますから、その場合は、相続放棄すべきか否か、難しい判断を迫られる場合があります。

 

最高裁で問題になったのは、民法714条の「法定監督義務者」の範囲でした。

今回の最高裁判決は、精神保健法の「保護者」や、民法の「成年後見人」であることだけでは直ちに法定監督義務者に該当するとはいえない、と判断しました。また、名古屋高裁判決の理由である、民法752条の夫婦の同居、協力、扶助義務から、配偶者を法定監督義務者とすることも否定しました。

 

ただ、「法定の監督義務者に準ずべき者」という概念を示しています。

「責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負うものと同視」

できると言い、妻と長男について具体的に検討したうえで、結論は否定しました。妻については、85歳で左右下肢に麻ひ拘縮があり要介護1認定を受けていたこと、長男については、東京都内勤務で横浜市に居住し、20年以上も同居しておらず、週末に訪ねていたにすぎなかったこと、などから、いずれも監督可能な状況になく、監督を引き受けたとみるべき特段の事情がない、としました。

 

「特段の事情」というのは、最高裁判決でよく使われる(濫用気味?)もので、この部分が今回の判断を判りにくくさせている原因です。具体的には?って聞きたくなりますが、それには答えないのが最高裁なんですよね。

 

今回の判決の意義は、木内道祥裁判官(大阪弁護士会の先輩です!)が補足意見で「介護の引き受けと監督の引き受けは区別される」と書いておられますが、この一言が判りやすいですね。

大変な介護を引き受けた親族が、最も重い責任も負わされるなんて、理不尽ですものね。


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