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2018年7月10日

ベネッセ事件 東京地裁判決 慰謝料認めず

今年(2018(平成30)年)6月20日、ベネッセ事件の判決がありました。

東京地裁は、この事件の個人情報の漏えいには、民法上の慰謝料が発生する程の精神的苦痛があるとは認められない、と判示しました。

 

事件は、個人情報を漏えいされた原告ら約180名が、株式会社ベネッセコーポレーションと同社からシステム開発と運用を委託されたグループ会社を被告に、民法の不法行為(交通事故や医療過誤と同じ法律構成です)として、損害賠償(慰謝料)合計約1500万円を請求していました。

実際に個人情報を持ち出したシステムエンジニア(当時)は、再委託先の従業員で、上記グループ会社の事務所で委託業務に従事していました(但し、派遣ではないようです)。

 

不法行為(損害賠償請求)の要件は、1)故意・過失(注意義務違反)、2)違法性(権利侵害)、3)損害、4)因果関係、です。

 

被告らの過失については、「MPT対応スマートフォンに対する書き出し制御措置を講ずべき注意義務があった」として、経済産業分野ガイドラインや内部不正防止ガイドラインに拘らず、過失を認めました。原告が主張した、私物スマートフォン持ち込み禁止、や、監視カメラ設置、については、業務従事者に対して制約を課すことなどを理由に、過失の前提となる注意義務としては認めませんでした。

 

権利侵害についても、個人情報は原告らのプライバシーに係る情報として、本件漏えいが原告らのプライバシー侵害になることを認めました。

 

しかし、本件プライバシー侵害(個人情報漏えい)による原告らの損害の有無とその額については、次のような理由で、認めませんでした。

先ず、判断の枠組みとして、個人情報漏えいの損害の有無や程度については、1)流出した個人情報の内容、2)流出した範囲、3)実害の有無、4)個人情報管理者による対応措置の内容等、を総合的に考慮する、としました。

具体的には、

1)の情報内容について

:氏名、郵便番号、住所、電話番号等、は私的領域性が低い情報で、出産予定日も本件では同様、

2)の流出範囲、や、3)の実害について、

:インターネット上で検索可能な状態に置かれたわけでないこと、

:現時点では、DMが増えたような気がするという以上に実害が認められないこと

4)被告らの対応について、

:被告らの注意義務違反が、ガイドライン等の明確な規定に違反したものでないこと、

:被告らの持株会社において、発覚後直ちに対応を開始し、被害拡大防止や監督官庁への報告、調査、被害顧客へのお詫び文書送付や500円相当金券配布、などの措置をとったこと

 

以上を認定したうえで、

「少なくとも現時点においては、最も多くの種類の個人情報(氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所、電話番号、メールアドレス及び出産予定日)が漏えいした原告らであっても、民法上、慰謝料が発生する程の精神的苦痛があると認めることはできない」

と判示しました。

 

 

この判決で、個人情報の取り扱いに気を緩めてしまうのは、大きな間違いです。

世界的には、個人情報の保護は厳格化の流れに在ります。ひとたび個人情報漏えい事故を起こせば、その社会的損失は計り知れません。

この判決は、単に、情報主体の個々人に金銭請求は認められない、というにすぎません。

個人情報の委託や管理における損害リスクの予防やヘッジは、これら判例を踏まえた工夫が必要です。

 

 

 

 

 

 


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