人も自然も輝く未来に

ブログ

2019年1月30日

改正民法の哲学的解説 その2 瑕疵担保責任の削除

 

今回の民法改正でもっとも根本的な点は、売主の瑕疵担保責任(改正前民法570条)の削除です。

これに代わり、買主の追完履行請求権(民法562条)が創設されました。

 

(買主の追完履行請求権)

第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

 

 

改正前民法の「瑕疵担保責任」には、その性質について、大きな学説の争いがありました。

 

通説(我妻説)の『法定責任説』は、瑕疵担保責任の性質を、「特定物」の売買にだけ適用される特別な(法定)責任である、と考えます。

「特定物」とは、個性を有する物のことです。

ちなみに、その反対は「不特定物」あるいは「種類物」といい、ひとつの物としては個性を持たず、商品としての規格や銘柄を指示するだけで取引できるものをいいます。なお、民法401条に「種類債権」の規定がありますが、これは今回も改正されていません。

売買の目的物が、不特定物(種類物)なら、引渡しを受けた物に「瑕疵」があっても、代わりの物を引き渡してもらえば良いのですが、「特定物」の場合、「代わりの物」が無いわけですから、買主は、瑕疵が在っても、引き渡されたその物を受け取るしかなく、他方で、決められた代金も払わなければなりません。この不公平を救済するために、法律が特別な担保責任として定めたのが売主の「瑕疵担保責任」というわけです。

 

これに対して、「瑕疵担保責任」も債務不履行責任(契約違反責任)の特則にすぎず、売買の目的物が特定物であっても不特定物であっても適用されると考える『契約責任説』が、以前から主張され、最近は有力になってきていました。

 

今回の改正は、いわば、『契約責任説』の勝利!なのです。

 

これによって今後の裁判実務がどれくらいどのように変わるのか、それはまだ不透明です。

ただ、前回メルマガの「理念」で説明したように、今回の改正の底流には、私的自治と契約自由の推進、があります。

そして、それを今回、もっともドラスティックに表現したのが、この、瑕疵担保責任の削除、と、追完履行請求権の創設、といえます。

追完履行請求権のキイワードは『契約適合性』です。

 

私が関心を持ってフォローしている土壌汚染の裁判例では、買主の売主に対する責任追及の法律構成は、瑕疵担保責任に集約されてきていました。

その理由は、瑕疵担保責任が「無過失責任」とされ、過失の主張立証の負担が無いからです。ちなみに、債務不履行責任(契約違反責任)の追及には「債務者の責めに帰すべき事由」が必要で、これは過失責任とほぼ同様です。

ただ、瑕疵担保責任は、「過失」は不要でも、「隠れた」「瑕疵」の主張立証は必要で、その内容が実際には過失の主張立証とよく似たものになっていました。

 

これに代わった「追完履行請求権」ですが、「過失責任」になったわけではありません。2項(「買主の責めに帰すべき事由」のときに追完履行請求できない)はありますが、これは過失責任だからではありません。

追完履行請求権のキイワードは、『契約不適合』です。

潮見佳男京都大学大学院法学研究科教授によれば、「すべては契約解釈の問題、契約の内容確定がすべて」ということになります。

売買の目的物が特定物か種類物かに関わりなく、目的物の「品質」すなわち当事者がどのような物を求めていたのか、が大前提ということです。目的物の「個性」は、客観的あるいは社会的にではなく、あくまで売買当事者のそれぞれの主観に拠って決まることになります。

 

こうなってくると、今後の裁判実務がどうなるか、なんて心配より、先ずは契約書をどう書くか、のほうがとっても大事ってことになりますね。

そう、まさに、潮見教授も、「危ないと思ったら、予測しうることはすべて、契約書に書くべき」と仰ってました。

 

欧米に比べたら簡潔と言われていた日本の契約書も、これからはブ厚くなりそうですね。

 

 

 


このページのトップへ


Copyright (c) 2011 赤津法律事務所 ALL Rights Reaserved